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「姫君から貴方のことを少しお聞きしました。シオン殿は人と関わることを極端に恐れる質の方だそうですね」
「恐れて、など」
「きっと不器用すぎる程に真っ直ぐで、賢く狡くという生き方が出来ない方なのですね」
「し、知ったような口を…!」
「いいえ貴方は真っ直ぐだ。現に今、ジャーミアの為に俺を殴ってみせたでしょう。どうしてその真っ直ぐさを彼女にぶつけないのですか。俺を愛することこそが彼女にとっての鎖だとわかった筈なのに、俺を殴ってもう終いですか?」
「っ…」
「貴方がジャーミアに向き合えないのは、彼女を傷つけるせいで自分が苦しい思いをするのが何より恐ろしいからでしょう」
シオンの喉は震え何の言葉も出てこない。
ああ、まただ。
また俺は、何も言えない。
「俺のような男に言われたくないかもしれませんが、傷つくことを恐れていては自分の本当の気持ちは相手には届かないのです」
そんなことわかっている。本当はわかっているのに。
シオンは眉を寄せ苦しげな表情を浮かべた。
「シオン殿」
小刻みに震え出した手をムスタファがぐっと力強く掴んだ。
「俺も怖かった」
「…え」
「傷つくのが怖くて、ハイドから逃げようとしたことがあった」
「……」
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