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侍女部屋の寝台にうつ伏せに横たわるジャーミアは、手にした上衣を抱きしめた。
「(あの人の、香りがする…)」
返しそびれたシオンの上衣。顔に押し当てて目を閉じればシオンがここにいるような錯覚に陥った。
シオン様。そう呟けば涙がこぼれそうで、泣くのを堪えた喉の奥がぎゅっと痛くなった。
「見てられねえな」
「ハイ、…!」
「起きるな、そのまま寝てろ」
自分しかいない侍女部屋の中で突如聞こえた男の声。驚いて身を起こしたジャーミアはぽんと、男…ハイドの手に押され寝台に体を戻された。
「婦人の部屋に断りなく入ってきたのは悪かったが、俺とお前の仲だ。許せよ」
ハイドは首を軽く傾けて笑うと寝台の上に腰を下ろした。
ジャーミアは頷いて、少しくまの出来た目でハイドを見上げた。
「…怪我なんて全然大したことないの、お見舞いなんて平気よ」
「馬鹿、そうじゃねえ。いや、まあそれもあるけどよ」
「じゃあ…」
どうしたの?と言葉を続けようとしたジャーミアに、ハイドはふんとわざとらしく鼻を鳴らした。
「泣いてる女がいたら慰めるのがいい男ってもんだろうが」
「私、泣いてなんか…っ」
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