第三章:踏み出す愛

19/30
前へ
/138ページ
次へ
シオンは一度深呼吸をしてから、侍女部屋の扉に片手を添えた。 「シオンだ。…話したいことがある」 固く閉ざしたその扉はまるでジャーミアの心を現しているようだった。 扉の向こうから悲痛な声が聞こえてきた。 「いや、聞きたくない。帰って、来ないでください!」 泣き叫んでいるようなその声にずきりと心が痛みをあげる。 シオンは拳を強く握りしめた。痛いのはきっと彼女も同じ筈だ。 俺はもう逃げない。絶対に諦めたりしない。 「…帰らない」 シオンは閉じかけた喉を押し開いて、顔を上げた。 「正直、何を言えばいいか全然わからないままここに来た。貴女が何に悩んでいるのかも察せない。俺は話すのが苦手だといつか言ったはずだ。貴女を慰める言葉も出てこない」 上っ面だけの慰めなんて言えない。 「だから、これだけを言いに来た」 俺に、今、出来ること。彼女に一番伝えたいことは。 「貴女を…ジャーミアを愛している!」 拳を作った両手を扉に当てて必死で叫んだ。 「何があっても、貴女が誰を好きでも、どんな傷があっても、俺はその度に貴女を愛していると言う!絶対に逃げない!!」 「嘘よ…」 「俺は嘘が付ける程賢い男じゃない!」     
/138ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加