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シオンは一度深呼吸をしてから、侍女部屋の扉に片手を添えた。
「シオンだ。…話したいことがある」
固く閉ざしたその扉はまるでジャーミアの心を現しているようだった。
扉の向こうから悲痛な声が聞こえてきた。
「いや、聞きたくない。帰って、来ないでください!」
泣き叫んでいるようなその声にずきりと心が痛みをあげる。
シオンは拳を強く握りしめた。痛いのはきっと彼女も同じ筈だ。
俺はもう逃げない。絶対に諦めたりしない。
「…帰らない」
シオンは閉じかけた喉を押し開いて、顔を上げた。
「正直、何を言えばいいか全然わからないままここに来た。貴女が何に悩んでいるのかも察せない。俺は話すのが苦手だといつか言ったはずだ。貴女を慰める言葉も出てこない」
上っ面だけの慰めなんて言えない。
「だから、これだけを言いに来た」
俺に、今、出来ること。彼女に一番伝えたいことは。
「貴女を…ジャーミアを愛している!」
拳を作った両手を扉に当てて必死で叫んだ。
「何があっても、貴女が誰を好きでも、どんな傷があっても、俺はその度に貴女を愛していると言う!絶対に逃げない!!」
「嘘よ…」
「俺は嘘が付ける程賢い男じゃない!」
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