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「俺に縛られないでくれ。罪悪感なんて感じなくていい、過去を引きずらなくていい。忘れてしまっていい」
自分を愛してくれた人。そして自分が傷つけた人。
ジャーミアはもう十分すぎるほどに苦しんだ。
どうか俺という過去を見ないで。貴女が新しい一歩を歩むとき、隣にいるのは俺じゃない。
「大丈夫、貴女は強い人だ」
「私が強い…?」
「己の過去や苦しみとしっかり向き合い悩むことは強い人間にしか出来ない」
ムスタファはジャーミアの手を取って、幼い頃と変わらぬ表情で笑った。
「貴女には今、目の前にいる人を見つめてほしい。その人が貴女を誰よりも愛してくれる人です」
「ムスタファ様…」
「貴女は幸せになっていいんだ」
幸せになって欲しい。
ムスタファの言葉にジャーミアは頷いた。今、自分の目の前にいる人はもうこの少年じゃない。
ジャーミアはシオンを見つめ直した。彼の顔を見るだけで心臓がとくとくと速くなる。
「私、この人が好きです」
幸せそうに笑ったジャーミアを見て、ムスタファは握っていた彼女の手をシオンの手に重ね合わせた。
「宜しくお願い致します、シオン殿」
「…は、い」
心底信頼しきった顔を向けられ、シオンは驚愕した。ムスタファの顔には自分の殴った痕が生々しく残っている。
本来なら不敬罪として問われてもおかしくはないのに。
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