45人が本棚に入れています
本棚に追加
/138ページ
「…貴女が、まだムスタファ様を好きだったならばどうしようかと」
ジャーミアは、まあと声を上げた。
「それはどなたからお聞きしましたの」
「いや…貴女を奴隷商から助けた時に、気付いた」
「そうですか…」
ジャーミアは少し黙った後、シオンの手を掴み自分の左胸に押し当てた。掌にぶつかる柔らかい感触。
「なっ!?」
シオンは狼狽え、顔どころか全身を朱に染め上げた。
「わかりますか」
「お、大きさか…っ!?よ、よくは分からんが八朔くらいはあるかと…」
「えっ!?そ、そうじゃなくて!」
素っ頓狂なシオンの返答にジャーミアまで真っ赤になる。それでも彼女はシオンの手を離さずに声を大きくさせた。
「心臓の音が違うんです!」
「し、心臓?」
駄目だとわかっていても掌に意識が集中する。
ばくばくと聞こえるこの音は、自分のものではなく彼女の胸から伝わるものだと気が付いた。
「ムスタファ様といる時は…温かかったけれど、こんなにうるさく速く鳴ることはなかったんです。だから私にはもうシオン様しか考えられません」
「そ、そう、か」
シオンは首を何度も縦に動かしてぎこちなく頷いた。これ以上触っていたらおかしくなりそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!