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心臓が跳ねあがった。思わず勢いのままに顔を向けると、雪花石膏の柱の傍らに、今まさに考えていた相手のジャーミアがいた。
先に戻った筈なのに何故いるのかと驚いていると、ジャーミアが頬に手を当てながら言った。
「余計なお世話だとはわかっているのですけれど…王宮は広いですから迷われたりしないかと思って」
「…いや、」
道がわからなくなればその辺りの侍女や宮殿兵に聞けばいいし、彼女もそれをわかっている筈だ。
それでもこうして待っていてくれた事実にむず痒くなった。
「まだ来て間もないんですもの、ご遠慮なさらずに何でも言ってください」
「…俺は、別に…」
そう言いかけるとジャーミアの眉が下がった。
シオンははっとして口を閉じた。
「ごめんなさい」
「っ、違…」
これでは、折角優しくしてくれた彼女にまでも愛想のないつまらない男だと思われてしまう。
急いで訂正をしようとするが、それよりも先にジャーミアが言葉を紡いだ。
「本当は私…」
彼女は穏やかに微笑んだ。
「もう少しお話してみたくて待ってたんです」
優しい声色で囁かれシオンは息を止めた。
胸がざわつく。何だろう、この身を焦がすような、それでいて気恥ずかしいような高まりは。
「嫌でしたか?」
シオンは首を振って口を開いた。
「……あ…有難う、ジャーミア」
そう絞り出したのがやっとだった。
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