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今日は他に何の予定もないはずだ。シオンが問えばプリムラは振り向いた。そして桃色の瞳をカッと見開き、子供も泣き出しそうな凄まじい迫力で怒鳴った。
「お兄様のところよッ!!」
◆
「オリヴァーと交換してください」
「はあ?」
紅玉の宮の門前。
怒り冷めやらぬ様子の妹を目前にしたハイドは眉を顰めて、不可解そうに見下ろした。
「この馬鹿が使い物にならないの、お兄様が持ってて。それで代わりにオリヴァーを頂戴、この際中年男でも我慢します」
「俺に何の利もねえだろうが」
「お兄様はもう昔ほどお忙しいわけでもないでしょう。でしたらシオンでも充分じゃないですか」
「言ってくれる…」
ハイドは結婚をし妻の身分になった。故国の王太子であった以前と比較すれば格段に仕事は少なく、異国人という立場もありあまり派手な行動はしないよう慎んでいる。
勿論それを承知の上で結婚をしたのだが、こうはっきり言われると頬が引き攣る。
プリムラはしびれを切らして金切り声で叫んだ。
「ごちゃごちゃ言わずに貸してよ!」
「わかった、わかったから騒ぐな喧しい」
ハイドは片耳を指で押さえながら、傍らのオリヴァーに妹の元に行くよう顎をしゃくった。
まるで子供が玩具の交換をする様に取り換えられた従者達はもはや悟っているのか何の不平不満も垂れなかった。
「ちゃんと返せよ」
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