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真冬に溶けちゃうスノーマン
「すまない、私はもう貴方と一緒にいられない」
やたら堅い口調なのは、このヒト自体が冷たいからだろう、と前から分析をしている。
そんなことを考えて、因幡少しだけ気をそらしてしまった。
本能的な拒絶反応。
声は、部屋の隅のバケツから聞こえる。
そこには雪どけ水が溜まっている。
因幡は長く、できるだけ長く息を吐いた。
白い息を、怪獣が吐く炎のように。
次にやることは、ストーブの電源を落とすこと。
それから冷蔵庫をあけて、雪どけ水の入ったバケツを寄せた。
どこからどこまでがおかしいのかを、まずは整理しないといけない。
「因幡、聞いているのか? 私はとても重要な話をしている」
「聞こえていますから、少し黙っていてください……」
バケツの中の水に語りかけるという一見奇妙な動作。
これは夏によくあることなので、特に問題視はしていない。
「声が聞こえないと不安だ。今の私には貴方が見えない」
「前から思っていたのですが、見えないのに声は聞こえるんですか?」
「空気の振動でこの身が揺れる、だから把握は容易だ」
なぜか自慢げになる声色に、因幡は心底呆れてしまった。
「そうなんですか」
ふとバケツから外した視線の先、木の壁に飾られた額縁の中の、数々の写真。
因幡と『雪でできたヒト』が並んで写っている。
「宇佐美……」
ポツリとバケツに向けて声を落とせば、波紋が広がる。
「その調子で、もっとしゃべってほしい」
水からは聞き慣れた声がする。
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