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因幡は、自分が何に困惑しているのか、指折り数えて思考を整理する。
ひとつめ。
ここは豪雪地帯にあるペンション。
ふたつめ。
宇佐美は、雪山から迷い込んできた雪人。
みっつめ。
因幡は宇佐美と暮らしている。
よっつめ。
宇佐美の体は夏には溶ける。
スノーマンなので。
いつつめ。
冬に溶けたのは、はじめてだ。
「一緒にいられないって、どうしてそんなことを言うんですか?」
宇佐美は、押しがつよい。
どうしてもこのペンションに住みたいなんて言いだした時もそうだった。
スノーマンが出ると知られたら、このペンションに人が来なくなるでしょう?
そう諭したが宇佐美は「私を客寄せパンダにすればいい」と因幡の手を取り言ったのだ。
多少凹凸がある程度の、人間の顔を真似た貌を寄せて。
それは去年の冬のできことだ。
触れられる手がとても冷たく不快に思ったことと、客寄せパンダなんて言葉を知っていることに、心底呆れたことを因幡は覚えている。
しかし宇佐美の試みは大当たり。
ペンションの客入りは、前年の2倍になった。
商売的にも、別れるのは困ることだ。
宇佐美のために暖房を切ったので、ペンション内は氷点下。
思わずくしゃみをすればバケツに波紋。
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