ユ ラ

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 俺は憤り吹き上げが激しくなり、だが、腕の中のユラが愛おしくなり、更に、その記憶を自分との時間で薄めてやりたくなっていた。本来、最も自分を家族として愛してくれるはずの父親に体を使われ、性処理の道具として兄と共有されて四年を過ごした、過ごさざるを得なかったユラ。誰に助けを求めたらいいのか分からなかったという。それはそうだろう、最も求めるべき二人に道具として使われていたのだから。学校の先生に相談しようものなら、恐らく父も兄も何らかの法的な罰則を受けて、一家は離散する。友達には恥ずかしいのと、情けなさすぎるのとで話す事など出来なかった、周りの友達にちらほらと男性体験の話しをする者が現れると、私、口だけした事あるとむしろ笑顔で答えるしかなかったと言う。高校一年の夏、未貫通の女性自身と後華を父と兄が同時に犯そうとした時、机の上にあった裁縫用の大きめのハサミが目に付いた。次に覚えているのは肩を抑えて唸っている兄と、両手の真ん中に穴が開いた父が玄関で呆然と立ち尽くしている姿だ。自分は全裸で玄関の扉を飛び出ていた。自分の後ろに隣の家のご主人と奥さん。途切れ途切れの記憶。口の中に綿棒を入れられて婦警さんが何かを言っていた。父と兄の命に別状はないという事だったのだろうか。奥田さんという婦警さんはとても若くて、優しくて、綺麗な人だったという事。とにかく、覚えていることは全部話したらしい。  俺は、涙が止まらなかったが、両腕、両手がふさがっていたので、静かに顔の両脇へ涙が流れ、やがて枕に染み込んでいくのを楽しんだ。一人の女を支えるチャンスを、また、神様がプレゼントしてくれたのだ。だから、「ウサギのサリー」を俺は書いたのか。人生に偶然はきっとない。全てが必然であり、その全てが計り知れない大きな愛みたいなものなのだろう。昔、奴隷の一人が言っていた気がした。  とにかく、俺は涙が止まるまで、ユラの頭を胸に押し付けるように抱きしめ続けていなければならなかった。見られたくなかったのだ。結局、見られてはしまったが。新宿の片隅で、この時、この女を飼おうと思った。
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