ユ ラ

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ユ ラ

 フェラガモの象徴的なリボンの付いた、皺一つない黒いパンプス。ガーダーストッキングはおそらく八〇デニールくらいの厚めのもの。優雅な曲線を描く脚はフクラハギと膝と太もものバランスが絶品で、しかも適度に細い。そして、長い。膝の上一〇センチ程にストッキングの終わりを示すのは、大きめの薔薇の柄の黒いレース。そこに四本のガーダーライン。黒に五ミリ幅くらいの白のストライプのマイクロミニスカートはスーツにしては短すぎる。同じ柄の上着はウエストが絞ってあり、女の曲線を艶やかに描き出している。はじけ飛びそうなボタンが押さえているのは、きっとFカップくらいの大きさの二つの膨らみだ。  淫猥な赤。壁もベッドカバーもソファーもテーブルも。気が狂う程、赤。好きになれない部屋にこの女だけが、モノトーンの落ち着きを醸し出した。ただ、最も狂っているのは当の、この女だと思う。セミロングの黒髪をなびかせたと思うと、その赤いソファーに倒れこむように座り、こちらに向けて、奇麗な脚をこれでもかというくらい広げた。上気した顔を見つめる。細面。たまご型より少し細めの輪郭。一重だが、切れ長で、ほんの少しつり気味の目。瞳は濃いグレーに見える。長すぎる睫毛は作り物かもしれない。眉毛は太めだが、それがかえって女の知性や美的感覚の素晴らしさを象徴しているのか。鼻ははっきりと筋のとおった小さめの小鼻をもち、美観の中心にある。今、クレオパトラ愛用の香油を塗ったかと思う唇。神ではなく、おそらく小悪魔が作ったものなのだろう。上唇の程よい薄さと下唇のゴージャスな厚さが見る者を捉えてしまうだろう。視線を下半身にもどす。二四歳。
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