セピア色の化物

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「何が言いたいのでしょう?」 「要するに写真館(ここ)は、そういった感情が渦を巻いているのだよ」  何が、要するに、なのか。俺の足りない脳味噌では全くもって理解ができなかった。  そんな俺の様子を見てか、男は奥からとても古い、しかしきちんと手入れの施された写真機を持ってきた。蛇腹構造に閃光電球のついたとても古いタイプのものだ。 「これが何か分かるかい」 「カメラ、でしょう?」 「そう、カメラだ。よく言えばレトロ、悪しく言えば時代遅れ、そんなカメラだ」 「これ、動くの……?」 「もちろん」 「やっぱり値打ち物ですか?」 「いいや、さして値はつかないだろうよ。だけど、これには価値がある。普通のカメラではないからね」  相変わらずさっぱり意味がわからない。  男は続けた。 「人がある一つの物に執着し続けると、その物は『宝物』にも『化物(ばけもの)』にもなる。愛を持って接すれば宝物に、歪んだ気持ちで接すれば化物に。こいつは、後者だ」  箱型の写真機を、男は愛おしそうに一つ撫でた。 「それは、宝物じゃなくて化物なんですか?」     
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