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「そうとも。これは数多の人の手を渡ってここへやってきた。ある者にとっては、もちろん宝物だったのだろう。──この写真機はな、たくさんの人の想いを吸収して育った『化物』なのだよ。撮る者、撮られる者の想いを写し出す逸品なのさ」
曰く付き、ということなのだろうか。写真機が化物だという所以を聞いて、ようやくそれまでの男の話が理解出来たような気がした。
「こいつは、『撮りたい』『撮られたい』という人間の想いを現像する。普通のカメラのように、瞬間を切り取るだけの機械じゃないってわけさ」
「確かにそれは、『化物』ですね」
「ははっ、そうだろう?」
忘れかけていた紅茶を口に含む。すっかり冷めてしまったそれを一気に飲み下した。
「そろそろお暇します」
「おお、そうか。それじゃあ」
写真機を抱えた男が隣の部屋へと手招きをする。それに従って入ると、どうやらそこはスタジオだったようで、スクリーンと椅子が置いてあった。
「さあ、そこに掛けたまえ。今日、君と僕が出逢えた記念に撮影してあげよう」
「はあ」
言われるがまま椅子に腰掛けると、さあ笑って、と陽気な男の声がスタジオに響く。そう素直に笑顔が作れるわけもなく、歪な微笑みが精一杯だった。薄ら暗い部屋に一際大きな閃光が走る。
「はい、おしまい。写真は来週には出来るから、またこの時間にここへおいで」
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