セピア色の化物

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「こいつは、『撮りたい』『撮られたい』という人間の想いを現像する」  男の言葉を反芻する。あの日、写真を撮ろうと言い出したのは男の方だった。この写真は、あの人の想いを映し出したものだ。  視界の端に捉えた少し格の高い額縁。今まで気が付かなかった壁掛けのそれを見る。ガラス面に被った埃を拭き取ると、色褪せた写真が顔を出した。  老人と写真機、そして隅には──曾祖父の署名。  老いてはいるが面影のあるその男の顔に、何となく全てを読み取れた。 「そういうことね。本当に『化物』じゃないか」  俺は作業台の横に見つけた大きなケースにプレスカメラを仕舞い込んだ。 「化けて出たくらいだ。こいつは俺の『宝物』にするよ」  丈夫な革のケースの重さを手に感じながら、現代から切り取られたようにセピア色の、それでいて粛然とした写真館を後にした。
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