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セピア色の化物
俺が物心着いた頃には、もう既にその写真館はそこにあった。いや、もしかしたら俺の生まれるずっと前からそこにあったのかもしれない。誰も気にとめたことがないから、その古ぼけた建物がいつから写真館だったかなんて、一人として気にする者はいなかった。
ある日の昼過ぎ、写真館の近くを通った時に俺とその男は邂逅した。若くてひょろっとした頼りのない身なりでいながら、どこか達観した空気を纏う、飄々としたおかしな人物だった。そして、どこか親しみやすい不思議な雰囲気を醸し出していたのだ。どうやらこの店は、この男が一人で営んでいるらしい。
彼は言った。
この写真館は人の想いで成り立っているのだ、と。
出された紅茶を啜りながらたわいもない話をした。
「時に、少年。君は『執着』というものをどう思う?」
正直、知らんがな、という答えが喉まで出かかったのだが、それでは会話が終わってしまうので、
「自分はそれほど物事に固執したことがないので」
と当たり障りのないことを言って遇った。
「人間という生き物は、人にも物にも『執着』する。固執、愛着、思念──。時と場合によって呼び方は変わるがね」
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