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「それよりスーちゃん、俺たった今、すごいことに気づいたんだ」
それまで笑顔を絶やさなかった蒼生君が急に真面目な顔になったので、私はハッとした。
「何、どうしたの?」
「あのね…… 安堂さんの、下の名前、知ってる……?」
「は?」
「あの人、良一っていうの。安堂良一。英語にすると、こうでしょ」
突然安堂さんの名前を出されて困惑する私の前で、蒼生君は店の紙ナプキンにペンを走らせた。
R. Ando
「ランちゃん、なんだよ…… 」
「はい?」
「うちの会社、スーちゃんとミキちゃんの他に、実は隠れキャラとしてランちゃんもいたんだ!明日課長に報告しないと!」
世紀の大発見をしたような口調で、蒼生君は熱く語る。
「それ安堂さんに言ったら、社会的に抹殺されると思うよ…… 」
暗い雰囲氣になったところで、わざとふざけてくれたことくらいわかってる。
だけど、笑顔でお礼を言えるほど、私は素直にできていない。
(まったく、気ぃ遣いぃなんだから…… )
私にもいつか、人生を変えるような出会いが訪れるだろうか。いつも不機嫌、と言われる自分を変えられるだろうか。
とりあえず、明日の朝は10分早く起きてみようかな。
私はそう思いながら、残りのカシスオレンジを飲み干した。
【おわり】
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