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破傷風は、ワクチンで防げる病気だ。
予防接種の普及している今の日本ではあまり知られていないが、感染すると致死率はかなり高い。
マリセラのいたスラムでは、破傷風で命を落とす人は決して少なくなかった。
「俺さ、フィリピンで炊き出ししたり、文房具配ったり、折り紙教えたりさ、ただ子ども達と遊んであげるだけでも喜ばれるなんて言われて、そうやってきたけど。
なんか、今まで何やってきたのかなって、そんなことよりもっと、ほかにできることあったんじゃないかなって、まあ、悩んじゃってさ」
考えた末に蒼生君がサークルの仲間と始めたのが、ワクチンをプレゼントする活動だった。フィリピンの貧しい子どもたちに、破傷風を含む混合ワクチンの無料接種を提供する。
学校の外からも参加者を募るため、蒼生君は2年生の終わりに学内のサークルを離れ、ボランティア団体を立ち上げた。
しかし、はじめは活動の全てを自分たちでやろうと息巻いて、うまくいかなかったという。
ボランティアは、肩の力を抜かないと続かない。
長く活動している先輩にそうアドバイスをもらい、無理なくできるやり方を模索した。
現地での労働。ワクチンと医師の確保。実施先の選定や物資の運搬。そして、日本での広報と募金活動。
他のボランティア団体の力も借り、信頼できるコーディネーターに頼ることで、スタッフの負担を軽くした。
試行錯誤を繰り返し、次第に一般社会からも寄付と人手が集まるようになった。
そうしてようやく軌道に乗った団体の運営を、蒼生君は卒業するときに後輩に任せてきたという。
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