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ハッピーなオトコ
去年入社した蒼生君は、すっかり社内の有名人だ。
「あのピンクの子でしょ」と、他の部署の人から必ず言われる。
ピンクなのは彼自身ではなく、彼が仕事中、ワイシャツの上に着ているパーカーだ。かなり明るい色の、しかもふわふわした素材の、しかもうさ耳のついたパーカーを着ているのだ。
成人した、社会人の、男がである。
似合っているから、そこがまた困る。
蒼生君はジャニーズ系の可愛い顔をしていて、24歳にしては童顔だ。
キメの細かい肌をしているので、私は時々つい、その毛穴のない横顔に見とれてしまう。
「スーちゃんに見つめられてるぅ!」
彼がふざけて調子に乗るので、最近はずるいと思いながらもあまり見ないようにしているが。
だいたい、指導担当者である私を「スーちゃん」呼ばわりしてくることろからして、全くふざけた男だ。
鈴木です、といちいち訂正するのも疲れた。
うちの課長はおおらかな人柄で、蒼生君が私をスーちゃんと呼ぶのを咎めない。むしろ、
「スーちゃんか、いいじゃないか。ちょうどうちの部署にはミキちゃんもいるし。ランちゃんがいないのが寂しいねえ」
などと言って目を細める始末だ。
最近は課長まで私をスーちゃんと呼んでくる。
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