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壱 英雄になりたい
「英雄になりたい」
鏑城聖は常であればごく平凡な一般的高校二年生である。
それはもちろん常であればの話でありいつでも平常心で過ごす人間などいないだろう。
ましてや若干のロマンチスト気質にある聖君が某有名な英雄小説を見た次の日、最高に暇な月曜日の放課後、ちょっとハッちゃけた発言をしてしまったとしてもそれはなんら不自然なことではないのだ。
「・・・・・・」
そしてほぼ無人の図書室で優雅に読書中な帶刀冬威には親友たる聖の奇怪な言動を自然にスル―するだけのスキルを有していた。
「なあ、冬威」
「・・・」
「な~んかデジャヴ感じね?」
「お前さ、馬鹿だろ」
「んだとォ!?」
「語り部さえコピペするくらい驚くほどの一致ぶりだったぞ? 前作読んでた読者こぞって慄いたぞ? お前よくもまあ数日前の自分の黒歴史をものの見事に忘却したな!」
「人間、嫌なことはすぐ忘れるもんだ」
「悟ったようなこと言ってんじゃねえよ」
「英雄になりたい!」
「お前もう帰れ」
数日前の黒歴史、と言うのは「魔法使いになりたい」などと言いだしたあの一件ではなく、
「王様になりたい」などと言いだした別の一件で、その日非常に機嫌の悪かった冬威君は無視して帰ると言うとても賢明な判断を下した。
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