壱  英雄になりたい

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「冬威君今日は優しいじゃないか? なあ。こないだは無言で席を立って流れるように帰っていったのに」 「今回もそうしなかったことを今悔やんでるとこだよ」 「ふっ、条件反射で逃げなかったお前の負けだ! 大人しく協力しろ!」 「協力を要請する人間の態度じゃねーな」 「はっはっは! 冬威は断れない! なぜなら、冬威君はなんだかんだ言っていいやつだからだ!」 「褒められてるんだか貶されてるんだか微妙なとこだけどどっちにしろ不愉快だな」  冬威は読んでいる本から目を離さないまま(「馬鹿に馬鹿を自覚させる八つの方法」)聖を何とかしてあしらう方法を模索していた。しかし、 「大体、俺がお前に付き合ってやる道理がどこにある」 「いいじゃねーか。どうせ暇だろ」 「・・・」 「暇だろ? なあ?」 「暇だよ。ああ暇だとも!」  今回ばかりは聖の意見の方が的を射ていた。 「そんな訳で、英雄になりたい」 「・・・聖に論破された・・・だと?」  冬威が己のプライドを傷つけられているのを見て聖は調子に乗った。 「さ、冬威君。アイディアを出してくれたまえ」 「調子乗ってんじゃねーぞてめえタイマンはっか?」 「急にグレた」 「大体よぉ、馬鹿と天才がくっちゃべってるだけの小説に続編書いても飽きられるだけだろうが!」 「メタネタに自画自賛挟むとんでもねえコメントしてる奴に言われたくねえよ!!」 「自画自賛じゃねえ、事実だ」 「とんでもねえこと言いやがるなこいつ」 「だから何だってんだ」 「アイディア、アイディア。さっさと出せよ!」 「嫌」 「一文字で断るか普通!?」  非常に不機嫌な冬威は分厚い本(猿でもわかる本がわからない猿以下を人間に戻す方法)をバタンと閉じて聖をこれでもかとばかりに睨みつけた。
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