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ーーー私を知っている?
ヒカルは、驚き過ぎて反論すべき言葉を失っていた。
ヒカルから視線を外し、また瞼を閉じる大乗。
「あなたは、私を知ってるんですか?」
「まあね、あんたの素性とやらは大体わかってるよ」
ーーーこの人は私を知ってて担当にと指名したのだろうか。一体なんの目的だろう。
「あー誤解してもらいたくないんだが、俺はあんたの素性を最近、偶然に知っただけだ。ストーカーとかの下品な類じゃないから安心していい」
ーーー偶然?ありえない。安心なんか出来るわけがない。この人は、お父様が私の様子でも見るために送り込んできたのだろうか。
なんにしても、ここは毅然とした態度でいるべきだ。これ以上、こんな男につけこまれないように弱い部分は見せるべきじゃない。
「……あなたになんの目的があるかは知りません…でも、その名前を会社の人達の前では呼ばないで下さい」
「ふーん……まあいいですよ、別に。その代わり……車の見積もりは、明日朝イチで届けて。それから……」
大乗は、簡潔に提案したあと瞼を開けてヒカルを見た。
大乗の視線に捕らえられたヒカルは、ぎゅっと両手でiPadを握りしめた。
ーーー別にやましいことはしていない。ただ、今はまだ私の素性を会社の人達には知られたくない。
「わかりました。約束します」
ーーーそれくらい簡単な事だ。
「そうこないとな、龍田さん」
体を起こした大乗は、運転手を呼び戻し、自分を会社へ送り届けたあと、ヒカルをディーラーまで送るようにと指示した。
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