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男がヒカルの唇を見ている。
男は親指の先で、ヒカルの唇を軽くなぞった。
のけ反るヒカルは、アームについているリクライニングボタンを押してしまっていた。
徐々に倒れていくシート。
「なんだよ。キスのやり方もまだ教えて無いのに……気が早いな」
男がヒカルの上に被さってくる。
ーーーこんなの! おかしい!だ、誰か! 助けて!
ヒカルが声を出す前にウィーンとドアが開かれていた。
「ちょ!! あんた! 何してるんだ!」
小林が店長と一緒に立っていた。
ゆっくりと立ち上がり、外に出る男。
「試してたんだよ」
「なんだと!」
いきり立つ小林を店長が止めている。
「車の乗り心地ですよね? お客様」
金払いのいい客に店長は、ゴマスリモードだ。
「あぁ、車…も乗り心地いい感じで気に入ったよ。はははっ」
先に店へ入っていく男に、へいこらとついていく店長。
「大丈夫だった? ごめん。俺が先に降りたりしなければ……まさかこんな」
小林が心配そうにヒカルがシートに起き上がるのを手伝う。
「大丈夫です。何かあった訳では無いし……主任のせいじゃないので」
ヒカルは、努めて明るく小林に答えた。
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