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だが、店長だけは男の意見に簡単に同意した。
「もちろんでございます。お忙しいでしょうから、うちの小日向に車の中でオプション説明をさせます」
「店長! それは、やめるべきです。さっき車の中で!」
小林が、さっき車の中でヒカルに被さっていた男の姿を見たのを忘れたのかというように店長に言いかけると、店長は、小林のみぞおちにひじ鉄を食らわせた。
「うっ!」
体を曲げて声も出せなくなる小林。
「小日向さん、頼むよ」
「店長、私には……」
断わろうとするヒカルに顔を寄せ、店長はクサイ息を吐きながら
「無理ならクビだ。うまくいったら、きみの望んでた営業専任の仕事にしてやる」
と、脅してきたのだった。
「そんな……」
ーーークビ? この歳でまた再就職?
職探しの苦労は、嫌っていうほど味わった。29歳の美人でもなく、平凡で生かせるような取り柄もない女が社員を目指すのは途方もなく難しい。
このカーディーラーに雇ってもらえたのだって、知り合いの口利きがあればこそだった。
ーーーまた、職探しは難しい……。
「小日向さんが嫌なら……他の営業所で買おうかな」
男が店長の顔色を伺う。
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