俺の好みを知れよ

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「……やります。私にやらせてください」 また、店長に脅される前にヒカルは自ら宣言していた。 「小日向さん! だめだ。止めた方が……」 みぞおちを押さえながら、小林が止めてきた。 ーーー自分さえ、隙をなくせば出来る。女だからって舐められてたら営業なんかできない。それに、ウルファードを売ることが出来たら、自分の自信につながる。 ヒカルは、男を真っ直ぐに見た。 ーーーいつまでも怖がって仕事していたら、きっとやりたい仕事なんか一生出来ない。こんな客の1人や2人、簡単にあしらえるようにならなきゃ。 世の中色々な人がいるんだから! 男が薄ら笑いを浮かべている。それでもヒカルは、負けじと目を逸らさなかった。 ーーーあなたみたいな金持ちをひけらかして横暴で自己中な男なんか大嫌い! 絶対に負けない。絶対にオプションをたくさんつけて成約させてやるんだから! ヒカルは、店長を強い目つきで見返した。 ーーー店長! 見てなさいよ! いつか私が営業でこの店1番の営業頭になって見返してやるんだから! 心配そうな小林を見て、ヒカルはゆっくり首を縦に動かした。 ーーー主任! 心配しないでください。私、主任に守られなくても頑張りますから! 意を決して、まるで出陣する武将のように堂々と立ち上がるヒカル。 気分は戦いを前にした戦国武将のようだった。長い旗がパタパタと翻り、馬の蹄の音が聞こえてくるようだ。 「参りましょうか」 ヒカルが馬みたいに鼻息荒く男に声をかけると、男は眉毛をピクリと動かしてヒカルを見た。 その顔は、いかにも意地悪そうな表情だ。 「……今から、迎えの車を呼ぶからさ……焦らないで座ってよ。小日向さん」 「え、まだ行かないんですか?」 へなへなと力を失うヒカル。気合いの入っていた旗がポキンと折れてしまうように感じた。 「うん、気合い入ってるところ……なんかさ、水をさして悪いね」 バカにして笑いたいのを堪えてる風にみえる男。口を押さえて肩を震わせている。 ヒカルはかあーーっと、恥ずかしさで全身が熱くなるのを感じた。 力なく椅子に座ったヒカルは、俯いて空回りした自分の恥ずかしさと戦っていた。 ーーー恥ずかしい! 私だけが熱くなってた! ヒカルは、誰にも顔を見られたくなくてテーブルにくっつくくらい頭を下げていた。
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