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大乗は、ネクタイを緩めシートにゆったりと身を沈めた。
「俺と密室で二人きりになった気分は?」
ニヤっと口角が上がる。
「わ、あ、あの特に何も……」
ヒカルは動揺していると悟らないために必死に言葉を繋げた。
「お、お客様と密室で二人きりになるなどは……よくあることですので……」
「へぇ、そうか。なら」
急に体を起こし、ヒカルのシートが倒れるボタンを押した大乗。
「客と密室で二人きりになって、こういう体勢になるのも、よくあることか?」
完全に倒れたシートに寝た状態のヒカル。覆うみたいにして大乗がヒカルを見おろしていた。
「よくあることか?」
「……ありません! 起こしてください!」
左右のアームに手をかけたままの大乗がシートを起こすボタンを押した。
徐々にシートと共に起き上がるヒカルの体。
シートが起き上がっていくうちに、待ち構えている大乗とより距離が縮まってしまう。
「ど、どいてください!」
顎を引いて顔を出来るだけ大乗から遠ざけようと必死のヒカル。
「起こしてだの、どけだの注文が多いな。小日向さんって」
一向に動こうとはしない大乗。
「大乗さん!」
「?」
「一体何がしたいんですか!」
若干切れ気味のヒカルは、目の前の大乗を睨んだ。
「小日向さんって、意外に大胆だな」
「え?」
「何がしたいのかって聞いたよな? 女を隣に乗せて、密室……することなら決まってるだろ」
ヒカルは、一瞬のうちに色々なことを考えていた。
ーーーそんな! 嘘よね。いくらなんでも密室だからってまさか!
「血に飢えたバンパイアに必要なのは、生娘の血。俺に必要なのは……新しい車と新しい女」
「新しい女?」
「そうだ、幸いというべきかな? 新しい女が欲しいと思っていた。だから、新しい女に俺を教えたい」
ヒカルは、唇を震わせた。
「冗談は止めて下さい!」
大乗は、ヒカルの手を掴んだ。
「冗談にしてほしいか? 」
妖しく光る大乗の瞳。
「私は、車のご相談に来ただけですから」
ヒカルは唇を震わせながら、それでもなるべく気丈な態度をみせた。
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