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束の間の幸せ
ずっと闇の社会で生きてきたアルにとって、アランとの生活は驚きの連続だった。
正直Ωとαが一緒に生活するなど続かないと思っていたのだが、全くそんなことはない。むしろ過去に両親と暮らしていた時よりも、アルは今幸せだ。
彼は自分を人として扱う。無理に抱こうとしたりしない。そればかりか、欲情すらする気配がなかった。
ここまで何もされないでいると、今まで自分が幾多ものαを魅了してきたため、驚きすら覚えてくる。
そして何故だかアルには、ここが自分の居場所なのだという気がしてならない。今まで抱えてきた自分の空っぽの部分が、彼といると不思議となくなってしまうからだ。
アランの仕事がないときは、2人で買い物に行ったり、外で食事をしたりした。
彼の仕事は、アルを救ったことからもわかるように医者らしい。研究医、と呼ばれる部類の。
しかし、近くのβの集まる研究所で働いているのが疑問点である。
αである彼がなぜβ用の職場で働くのか。αはαとしているαに与えられた恵まれた環境にいるのが常識なのに。
アランについては謎だらけだ。アランはアルと2人きりの時以外、いつもβに姿を似せている。
茶色いウィッグをかぶり、目にはカラーコンタクト、肌はファンデーションでやや黒目に、そしてその美しい立体感をわざと隠すために顔が平坦に見える化粧を施す。
この世のものとは思えないほどの美貌はそこまでしても隠し切ることはできないが、彼が人間だと信じられる程度の容姿にはしてくれた。
そしてアルもまた、彼に渡されたカラーコンタクトで、彼と2人の時以外は、その2色の瞳を自らの髪と同じ、黒に装っている。
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