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ーーー主任は、お金持ちの女性と交際したが上手く行かなかった話をしていてくれた。でも、だからと言って……。
「まだ、わからないじゃない。主任が本当の私をどう思うかなんて……」
「じゃあ、聞いてみれば?」
大乗の顔がヒカルに近づいた。
顔を大乗から背けるヒカル。
大乗は、ヒカルの耳に唇を寄せた。
「その耳で目で確かめて来いよ。奴を……社長の娘が一般人として職場に嘘ついて潜り込んでたんだ。どんな理由があるにせよ、今まで奴を騙してたってことには変わりない。それを忘れるなよ」
静かに体を起こしヒカルの手を離した大乗。
大乗に言われたことをヒカルは、考えていた。
ーーー確かに私は主任を騙して今まで働いていたんだわ。
ヒカルは、父親のお金には頼らずに自分で仕事をして暮らしたかった。
短大を出てから一般の人と同じように働いてみたかったのだ。
だけど、何不自由なく暮らしてきたヒカルに世間は厳しかった。
初めて勤めた事務の仕事は自分に合わないと感じたし、先輩社員からは非常識だと散々言われて意地悪もされた。
意地悪がどんどんエスカレートし耐えられなくなり自分から辞めて再就職を探した。
再就職は、なかなかに厳しかった。
上手く行かずに結局、父親に身分を隠して営業の仕事をしてみたいと頼み人事に口を聞いてもらってた。
ーーー結局、私は甘いんだ。お父様に頼って生きてきた。
お父様の言いなりが嫌だったはずなのに、お父様の力に甘えていた。
しかも身分を隠して欲しいと頼み込んだのは、私だ。自分から嘘をつき、ディーラーで平然と働いていたんだ。
こんな嘘で固めていた私を主任が許してくれるだろうか?
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