6/8
91人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ
 校門を出てまっすぐ県立図書館に向かう。あたしはふだん、図書館の学習スペースで勉強をしていた。そこは高齢者がたまに新聞を読んでいるくらいで人が少なく、勉強するには穴場なのである。  図書館についてすぐ、あたしは二階に向かった。学習スペースではめずらしく女子中学生の集団がテキストを並べていた。彼女らはべちゃくちゃとうるさくしゃべっていたのだが、あたしに目をとめると途端に口をつぐんだ。よほど殺気だった顔をしていたのだろう。  あたしは窓際の席を陣取ると、叩きつけるように数学の問題集をテーブルに広げた。  数学は中学までは大好きだった教科だ。高校に入って大嫌いになった。数学教師のせいである。  数Ⅱの微分積分の単元を開く。公式の一覧が目に入り、思わず深く息を吐いた。  数学はこんなにも美しいものであるのに、どうして嫌いになっちゃったんだろう。すべて大人のせいだ。価値あるものを、ことごとく(けが)してゆく。 (この髪だって――)  あたしは頭をがしがしとかきむしった。 (――だめだ。怒りにかられて集中できない)  参考書を閉じて、立ち上がった。このままでは貴重な時間を無駄にしてしまう。気分を変えたくて、ペンケースで場所取りをして学習スペースから出た。  背後で女子中学生の囁き声がひそひそと聞こえてきたが、かまいやしなかった。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!