第1章。

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『コラァー!さっさと借りたもん返さんかい!!』 アパートの玄関に怒号が飛んだ。 ドンドンとドアを叩く音が響き渡る。 僕と母さんは身を寄せ合って震えていた。 『翔太、声を出すんじゃないよ。』 母さんは震える僕の肩をギュッと抱き寄せた。 中3の僕には耐え難い恐怖だった。 1時間ほど男たちは喚き散らかして『中野さーん、また来るからねー』と行って帰って行った。 『ごめんね。ごめんね翔太、、、』 母さんは泣きながらいつまでも僕の肩を抱いていた。 借金取りが来るようになったのは去年の事だった。 父親が知人のネットビジネスに手を出したのが始まりだ。 会員を増やせば半年後には10%のインセンティブが発生し、何もしなくてもお金が舞い込むという中学生の僕でも分かるほど胡散臭い商売だった。 父親が食卓に手の込んだパンフレットを並べて意気揚々と話していたのが印象的だった。 最後まで反対していた母親の制止を振り切り父親は会社を退職してネットビジネスを始めた。 『翔太!これから贅沢させてやるからな!』 僕は子供ながらに、その言葉を信用出来ないでいた。 案の定、3ヶ月が経った頃、家庭内は不穏な空気に包まれ始めた。
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