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ついに僕たちは住処を失った。
ご近所からの苦情と、家賃滞納で法的処置を取られたのだ。
あんなに優しかった大家さんが、まるで別人のようだった。
僕たちは持てるだけの荷物を手にアパートを後にした。
母親は玄関に置いてある家族写真をそっとカバンにしまった。
まだあの人を忘れられないでいる母親が滑稽に思えた。
僕たちはアパートから出て当分の間、無言で歩き続けた。
これからの事を考えると恐怖だった。
街明かりが随分と遠ざかった頃、母親がボソッと口を開いた。
『もう楽になろうか、、、』
16歳の僕は、その意味をすぐに理解した。
何も答えない僕に母親はニコッと笑みを向けた。
『ウソウソ。なんでもない。今日はホテルに泊まろ。』
母親は財布を取り出してお金を確認した。
そこにはなけなしの1万円札が入っていた。
そして僕は、その言葉が嘘ではないと理解した。
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