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旅立ち
翌日の午後、グレイシアはネイサンが逗留している宿を訪ねた。
「学校はどうしたんだい?」
少女を招き入れながら、ネイサンは聞いた。
「今日は午前中だけ。てゆうか、もうすぐ卒業だから、授業なんてほとんどないのよ。消化試合ってやつね」
グレイシアが帰り道で摘んできた濃紺の実をテーブルに広げると、ネイサンは不思議そうに首をかしげた。
「ブルーベリーかい?」
「知らないの? これ、カラファテの実。おやつよ。すごく栄養があるの。私たちのご先祖様は野菜を食べずに、肉とこれだけで健康だったんだって」
そう言ってグレイシアは、3、4粒をつまんで口に放り込んだ。もぐもぐと口を動かしながらティッシュをとってくると、それを口に当てた。
「種と皮は渋いから、出してね」
ネイサンの分のティッシュを手渡すと、少女は椅子に腰かけた。
ネイサンは部屋に備え付けられたケトルで湯を沸かすと、2人分の茶を淹れて一つをグレイシアの前に置いた。この年頃の子が熱い茶を嗜むかはわからないが、無闇に飲んで火傷するような歳でもないだろう。
「それで、君はどうしてこんなじいさんを訪ねてくれたのかな?」
向かいの椅子に腰を下ろしながら訊くと、グレイシアはニヤッと笑った。
「あなたはじいさんじゃなくてネイサンでしょう?」
その生意気な様子に、思わず笑みがこぼれる。
「私にそんな風に冗談を言ってくれるのは君だけだよ、おしゃまなグレイシア」
「私がこういう口をきいて、怒らない大人はあなただけよ、変わり者のネイサン」
ふふんと笑うと、グレイシアはふと真顔になって正面からネイサンをじっと見つめた。
「私を、あなたの旅に連れて行ってほしいの」
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