旅立ち

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「昨日、下の酒場で村の人達が話しているのを聞いたんだよ。私の青い目は、セシリアに似ているかい?」 「よく似ているわ。あなたたちはきっと、同じ民族なのね。セシリアもあなたと同じように、北で溶けて大きな災厄をもたらした氷河の話をしていた。彼女の町の人たちもみんな、家を捨てて逃げなければならなかったと言ってたわ。できればあなたに、会わせてあげたかった」  この村で、セシリアは毎日氷河に足を運び、氷塊が崩れ落ちる轟音を聞いていた。南の果ての村の氷河も、年々少しずつ溶けてその範囲を狭めていると嘆いていた。 「この村の人たちは、セシリアを受け入れなかった。ひどく保守的なのよ。便利な生活に飛びつかないところはいいけれど、自分たちだけが昔ながらの生活をしていれば、氷河を守れるとは限らないのに」  ネイサンは、辺境の村の少女の慧眼に胸を突かれた。 「だから私は、この目で世界を見に行きたいの。この村の氷河を守るために、私ができることがなんなのかを知りたいのよ。昨日あなたは、自分が生きているうちには答えが見つからないかもしれないと言ったけれど、それなら私がそれを引き継ぐわ。一緒に旅をして、あなたの知識を全部、私にちょうだい」  傲慢とも思えるグレイシアの言葉に、ネイサンは不思議な安らぎを覚えた。  もしも自分が倒れても、この子がすべてを継いでくれるのなら……  辛い経験も旅で培った知識も、無駄にはならない。それはとても、すてきなことに思えた。
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