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「なんてことだ、グレイシア。君は年寄りの有効な使い方をよくわかっている。もしかしたら私は、きみに会うために旅をしてきたのかもしれないな」
ネイサンは目を細めた。了承を得たと感じたグレイシアは、大きな目を輝かせた。
「でも、まずは学校を卒業してからだ。それまでは、私もこの村に残って君を待とう。その間にも、君に伝えられることはたくさんある。そしてその間に、君は自分の将来について、もっと時間をかけてじっくり考えなさい。さすらいの旅に身を置いたら、結婚もできないかもしれないからね」
そう忠告すると、少女はぎゅっと小さな拳を握りしめた。
「結婚が女の幸せだなんてバカなこと言ったら、じいさんでもぶん殴るわよ!」
この強気な少女との旅は、きっと想像もつかない感動に満ちたものになるだろう。
死の街で一人生き残り、どうしてみんなと一緒に死なせてくれなかったのかと神を恨んだこともあったのに。
この歳になって、こんなにもワクワクすることがあるなんて……
「私はじいさんじゃなくて、ネイサンだよ」
旅人は歯の抜けた口を開けて、高らかに笑った。
少女の瞳は、一番星を掲げた夜空のように輝いていた。
【了】
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