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グレイシアは今まで、他人のまつげになど、関心を持ったことがなかった。人のまぶたには付いているのが当たり前で、長いとか多いとか、そういうことは別にどうでもよかった。
でも、それが存在しない、ということが、こんなにも人の顔に違和感を生むものだとは思わなかった。
グレイシアの子どもらしい率直さに、男は困ったような顔をした気がする。
気がする、というのは、彼がまぶたのすぐ上まで隠れる毛糸の帽子をかぶっているために、眉の動きが見えず、表情の変化がわかりにくいのだ。
「気味悪がらないでほしいんだが……」
そう言って、男はおもむろに、自らの茶色い帽子を脱いだ。
男には、眉毛も頭髪も、一本も生えていなかった。
正直に言うと、確かに気味の悪い外見だった。ただそれを表情に出さないだけの分別を、グレイシアは持ち合わせていた。そして持ち前の好奇心が、彼女を突き動かした。
グレイシアはぐっと顔を近づけると、男の顔を下からまじまじと観察した。男には、ヒゲの剃り跡もなく、鼻毛や顔のうぶ毛もない。つまりは全くの無毛なのだ。
グレイシアが膝に置かれた彼の手に視線を落とすと、男はその意図を察したのか、長袖をまくって見せてくれた。
その腕にもやはり、毛というものは一筋もない。
「どうして?病気なの?」
グレイシアが目を見開いて訊くと、彼は皺だらけの顔をさらにしわしわにして悲しげに微笑んだ。
「私の街の、悪魔の仕業だよ」
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