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そして悪魔はある日突然、恐ろしい牙をむいて街に襲いかかったのだ。
昨日まで普通に生活していた人々が、ばたばたと謎の病に倒れた。発熱、嘔吐、下痢症状を訴えるものが続出し、街は汚物にまみれた。看護にあたっていた家族も次々に倒れ、症状の出た者は数日で命を落とした。
ネイサン自身も高熱に襲われ、何日も生死の境を彷徨った。父親を看取ったばかりだったので自らの死を覚悟したが、彼は奇跡的に一命をとりとめた。
目が覚めたとき、ネイサンが意識したのは、恐ろしいほどの静寂だった。
鳥のさえずりも、犬の吠え声も聞こえない。
一年中、夜中でさえ賑やかだった街は、不気味な静けさに包まれていた。
生き残ったのは、彼一人だけだった。
ネイサンの街はほんの半月で、死の街になってしまったのだ。
「伝説は……」
まつげのないネイサンの目を見つめ、グレイシアは問いかけた。
「あなたの街には、悪魔の伝説はなかったの?」
「いや、あったよ」
「それならどうして……」
「みんな信じていなかったんだ。そんな伝説、くだらない昔話だと、笑っていたんだよ」
ネイサンは走った。
街中に死体と腐臭が溢れていた。
誰かいませんか! 誰かいませんか!
狂ったように叫びながら、何日も飲まず食わずの身体で、生き残った者を探して街中を走り回った。
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