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そしてとうとう一人の生存者にも出会えないまま、湖のほとりにたどり着いた。
湖の水は、いつもどおりに碧く美しく、そよ風に立った漣が白く光っていた。
突然、強烈な喉の渇きを感じたネイサンは、湖の水をすくって飲んだ。がぶがぶと飲んでから、ハッとした。
水が、温い……
この湖は、かつて氷河だった。ネイサンが生まれる前から生活用水として使われていたが、真夏だって手が凍るような冷たさだったのに……
目の前に広がる湖に、ネイサンはぞっとした。
氷河の下には悪魔が眠っている
その伝説を、思い出したのだ。
「みんな、悪魔に殺されてしまったんだよ。伝説を信じていなかったから、氷河を守ろうとしなかったから、みんな、呪われてしまったんだ……」
ネイサンは家に戻ると、車に乗って街を出た。
隣の町まで35km。走れども走れども、目にするのは屍ばかりだった。
渇いた大地に点々と白い、無数の羊。石のように横たわる牛や馬。路肩に停められた車の中を確認するのを、途中からもうやめた。
耳に聞こえたのは、自分が鼻をすする水音と、車のエンジン音だけだった。
「隣の町で、助けを呼んだの?」
グレイシアが聞くと、ネイサンは薄く微笑んだ。
「誰も、いなかったよ……生きているものはね」
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