北の大地

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 その答えに、少女は顔をしかめた。 「今思えば、はじめから湖から離れる方へ進めばよかったんだよ。でも道路は湖畔をぐるりと囲むように作られていてね、それに沿って走ったから、ダメだったんだ。隣の町も、その隣の町でも、誰にも、会えなかったよ」  湖畔を一周して、ネイサンは自分の街に戻ってきた。半日ほど経ち、街は藍色に沈んでいたが、それ以外にはなんの変化もない。どの窓にもあかりがなく、しんと静まり返っていた。  燃料の補給を試みたが、停電しているせいか機械が動かなかった。  今残っている燃料で、行けるところまで行くしかない。ネイサンはスーパーで食料を調達すると、それを車に積み込んで再び生まれ育った街を後にした。  二度と戻れないとは、思っていなかった。 「それから、どうしたの?」 「ずっと走ったよ。南に向かって、ずっと、ずっとね。夜は車の中で寝て、朝になったら走りはじめて。燃料が尽きて、車が完全に動かなくなるまで、誰にも、本当に誰にも、会えなかった」  ネイサンは燃料切れで動かなくなった車を降り、バックパック一つを背負って歩きはじめた。  南へ、南へ。  湖の悪魔から離れる方向へと。  そして歩きはじめて4日目に、小さな町にたどり着いた。     
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