ネコの…

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「ヤマネコさまこと、山根琥太郎さま。独身。御歳三十五にしてお独りの身。ご交際相手はおられず、また長らくそのようなお方もいらっしゃらず。ご実家を出て十数年、おひとりでアパート暮らしをなさっておられる無類のネコ好き。しかしアパートではネコと暮らせず、ネコ欠乏症なるものに悩んでいらっしゃる。ちょっと(かなり?)お寂しいご様子のおのこでいらっしゃいます」 寂しい男。言ってくれる。けれど、否定できないのが悲しいところ。ハレくんの仰る通りで。 確かに僕は寂しい男だな。色んな意味で。よく調べてはいるけれど、寂しい身の上になった最たる理由までは知らないのか、それとも敢えて伏せたのか。周知の事実ではあるけれど、初対面や見ず知らずの相手に知られたい事柄ではないし、むやみやたらに公表する内容でもない。なので敢えては言わない。 「そんなどうでもいいことを調べてくれたんだね。けど、そんなことを調べて一体何になるんだい?まさか恩返ししてくれるわけでもないだろうに」 「そのまさかでございます」 「はい?」 思わず素っ頓狂な声を出してしまう。 「いや、別にお礼をしてもらうようなことはしてないよ」 「とんでもない!ワタクシ、この命を救っていただきました。こんな大きな恩に報いないなんて、ネコの風上にもおけません!」 「いや、その気持ちだけで十分だから」 「それではネコが廃ります!」 「いやいや、その有り難いと思ってもらえる気持ちが十分嬉しいから」 「そういうワケには参りません!」 ハレはどうしても引かないつもりか、こちらが何を言っても恩を返すと言って聞かない。ここは折れるしかないのか。 「わかった。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」 「有り難う存じます!これでワタクシもネコ並みになれます」 ネコにはネコの(いや、正確には猫又の?)流儀や作法があるということか。頑なに拒むものでもないし、それでハレの気が済むのなら受け入れてやればいい。はてさて、どんな「恩返し」をしてくれるのだろう。
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