ネコの…

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「それはさておき。どうしたらアンタに恩返しできるかねぇ」 そうだった。 そもそもこの不思議な空間に連れてこられたのは、それが目的だった。懐かしさに浸ってすっかり忘れていた。 「いや、だから恩返しされるようなことはしてないってば」 「そういうわけには」「いかないんだよね?」 僕は先のハレとの遣り取りを思い出し、彼の言葉に自分の言葉を被せた。 「んー、でもなぁ。僕は自分の中で当たり前だと思うことをしただけだからなぁ。恩返しって言われると何だかヘンな感じだ」 「ならばせめて、何かお望みを叶えさせてはいただけませんか」 「うーん、望みって言われても急には思い浮かばないし…」 何かほしいものはないかと聞かれて、僕はすぐには思い付かない。普段はアレがあればいいのに、コレがあれば便利だろうになんて、利便性を追求しているくせに、いざ不意に聞かれると出てこない。要するに、別段ほしいわけではないのだ。ただ、あったらいいな、あったら便利かな、程度の軽い気持ちなのだ。 望みか。望み。 あぁ、別にものである必要はないのか。望みなのだから。 「うーん、でもなぁ。いくらなんでもこれは難しいんじゃ…」 「なんだい、望みがあるなら言ってみなよ」 「いや、無理だよ」 「無理かどうか判断するのはあたしたちだよ。アンタが決めることじゃない。それにしても変わってないね、そのためらいぐせ。アンタは幼い頃から周りに遠慮して本音を出せずにいたね」 驚いた。そんなことまで気づいていたんだ… だからいつも側に居てくれたのか。本音を言えず、子どもらしいわがままも言えず、ひたすら大人の顔色を伺っていた僕。聞き分けのいい子だと褒められるほどに僕は本音を押し殺すようになった。それに気づいてくれていたのか… 「望みはもう叶ってもいるんだよね。もう一度ミイちゃんに会いたいって、もう叶わないはずの望みが叶ったから。ただ、もうひとつ欲を言うなら、またネコと暮らしたい」 「なんだ、簡単じゃないか。どこが無理なんだい」
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