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「でも、僕のアパートは動物は飼えないんだ」
「そんなこと知ってるよ」
「だったらどうやって」
「こうするのさ」
おたまはおもむろに杖のような尺のようなものを取り出す。いかにもアニメや漫画にでも出てきそうなアイテムに、僕はキョトンとしていたらしい。その様子を見たハレが口元に手(前足?)を当てて、ふふふと息を漏らしている。
いや、いきなり二次元のアイテムが出てきたら三次元の人間は驚くんじゃないか!?そこは笑うところじゃないだろうと、僕は決まりが悪くなる。
僕らがそんな遣り取りをしている間におたまは作業を終えたらしい。
「ふぅ。久々の大仕事だったね。さすがに疲れた」と、腕(前足?)で額の汗を拭うような仕草をしながら杖状のものの先で描いた紋様に触れた。
途端に紋様から光の柱が上がり、一瞬の後に消えた。
呆気にとられた僕は、今度はポカンとしていたらしい。ハレがこちらを見て、今度は両手(両前足?)で口元を押さえながら必死で笑いを堪えている。
なんだよ、笑いたければ笑えばいい。次から次へと奇怪なことが目の前で起こったら驚くのは当たり前じゃないか。僕はこれまで普通の人間だったんだから。こんな怪異、見たことも聞いたこともなかったんだから。
「さぁ、これで完了」
「って、何がどうなったんだ?!」
「アンタの家とここを結界で繋いだんだよ」
「どういうこと?」
「つまり、これでアンタの家から自由にここに入れる。好きなときにネコと触れ合える。ここには色んなネコたちが来るんだよ。言うなれば猫屋敷さね」
「猫屋敷…」
なんとすてきな響きだろう。
「アンタの顔は忙しないね」と、おたまが揶揄する。今度はどんな顔をしていたんだろう。「恍惚とされておりました」と、まるで僕の心を読んだかのようにハレが言う。
恍惚、なんて言葉を使われたら恥ずかしいことこの上ない。けれど、僕のネコ好きはそういうレベルなのかも知れない。
「ここにはね、あたしらみたいな猫又も来るし普通のネコもいる。とにかく色んなネコたちが集まって来るんだ。きっとコタ坊にとっての招き猫も現れるさ」
そう言っておたまは片目をつむった。ウインクのつもりなんだろう。表現がちょっと古臭い気がするけれど、おたまは古いネコだもんね。
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