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「コタさま」
リビングと呼ぶには小さいけれど、それなりに寛げるスペースに置かれた一人掛けのソファーに座って珈琲を嗜んでいるご主人に声をかけると、眠たげなまなこでこちらをご覧になる。
「ん?ハレ、どうした?」
眠たげなのはまなこだけでなく、お声もである。
「今日は随分とごゆっくりなさってますが、お仕事は大丈夫ですか?」
「あぁ」
と、また眠たげなお返事。
「今日は代休だからね。こないだ返上した休みの振替ってところかな」
「そうでしたか」
「お守りネコはそんなことまで心配してくれるんだな」
そう言うとコタさまはそっとワタクシを抱き上げて膝の上に乗せ、背中をやさしく撫でる。「ありがとう」と、コタさまはいっそうやさしくワタクシの頭を撫でた。
「今日は特に何もすることないんだよね。買い物でも行こうかな。ハレは何かほしいものはない?」
「いえ、ワタクシは猫又ゆえ別段ほしいものも必要なものもありませんので、どうぞお気遣いなく」
「そっか。じゃぁ、何か好きなものは?」
「好きなもの、でございますか?」
「うん。食べるものでもネコジャラシみたいなおもちゃとかでも、何でもいいんだけどさ」
好きなもの、と聞かれて、すぐには思い至りませぬ。今まで特に考えたことも欲したこともなかったので。
「うーん…」と考え込むワタクシの様子を、コタさまはやさしい眼差しで見守っておられる。そんなにじっと見つめられると恥ずかしいのですが…
ワタクシの返答を期待されるかのように御目を輝かせておられるご様子に、いささか困惑してしまう。「あの、特には…」おそるおそる口を開くと「やっぱりね」と、コタさまはニヤリとお笑いになる
「ハレならそう言うと思ったよ。自分のことよりも人のことだもんな。自分の欲するところには疎いんじゃないかって思った」
コタさまはワタクシを胸に抱き上げるとソファーから立ち、ワタクシをそっと床に下ろす。
「じゃぁさ、今日は一緒に出掛けよう」
と言うわけで、本日はコタさまと一緒に街まで出ることになったのであります。
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