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三毛猫の後に続いて歩いて行くと、見慣れない細い路地に入った。いくつか角を折れ、入り組んだ細い道を行く。蛇のようなミミズのような、そんな妙な比喩をしたくなるほど細い路地で、こんなところ誰が通るんだろうと思うような道だった。
いや、もしかしたら道ではないのかも知れない。普通、人は通らないのかも知れない。それこそネコ専用通路?だったりして…
「ついたぞ」
三毛猫の声にハッとする。
目の前には粗末な小さなあばら家があった。両脇には年季の入った土塀があり、その中に建つ家も土壁だった。いったい、いつの時代から建っているのだろう。見当もつかない。
「ようこそ、我が家へ。ここなら誰にも見られないからね。さ、入りな」
三毛猫に促され、僕はあばら家に足を踏み入れた。
一歩足を踏み入れ、驚いた。いや、魂消た!と言った方がいい。心底びっくりしたのだ。あばら家という外観から誰が想像できるだろう。その内装は、僕の少ない語彙で言い表すなら「御殿」だった。
「アンタ、そのあほ面が標準なのかい」
呆れた声に我に返ると、いつの間にか二本足で立つ三毛猫の姿があった。
「自己紹介がまだだったね、ヤマネコくん」
僕は再び魂消た。いや、ぶったまげた。
ネコの二足歩行さながら、三毛猫が僕のあだ名を知っていることに。
「え、どうして、」
「あははは。今度は金魚だよ」
驚きに言葉を失くして口をパクパクさせる僕を、さも可笑しそうに笑う三毛猫。ネコって笑うんだねと、表情とは裏腹に思考は回転していた。
「で、あたしの自己紹介だよ」
不意に三毛猫は笑いを止めた。
「あたしは、猫又のおたまって言うんだ」
「おたま…」
僕の「…」に何を思ったのか、三毛猫はむっとしたような顔になる
「おたまって、何か妙なもの想像してないよね?」
「あ、いや、タマじゃなくておたまなんだなって」
「本名はタマだよ。でもみんなが『おたまちゃん』って呼ぶもんだから、あたしの中ではおたまなのさ」
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