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いや、三十路半ばの男を捕まえて「若いの」はないだろう。いやいや、中高年から見たならばあり得るのか。けれども僕自身は、自分でもう若いとは思えない。体力も落ちたし、疲れも抜けない。二十代の頃と同じ食事をしていたら体型は維持できないし、何より油物は食べられなくなった。そんなふうに思っているから、よもや自分が若者扱いされるとは思ってもみなかったのだ。
「で、どうして?何で僕のことを知ってるんだよ」
「アンタはあたしの倅の恩人なのさ」
「え?倅?恩人?」
何が何だかさっぱり分からない。
と、不意におたまの陰からひょこっと姿を見せたものがいた。ハチワレの仔猫だった。
「あ、お前は!」
ハチワレは二本足で器用に立つと、ぺこりと頭を下げた。その仕草があまりにも可愛らしく、思わず萌えてしまう。
「その節は危ないところを助けていただき、誠にありがとう存じます」
おたまの倅だというハチワレは、母に似合わず礼儀正しい。
「ワタクシはハチワレのハレと申します。おたまの息子にございます」
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