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「うん、美味い。──なぁ。これはなんと言うんだ?」
振り返った彼女の口元には赤い模様。
それはトロッとしていて、今にも彼女の服に溢れそうだった。
僕は鞄からハンカチを取り出し、彼女の模様を拭ってやる。
「ホットドッグですよ」
「ほっと、どっぐ」
手の中にあるそれを彼女は見つめ、一口頬張る。
「うん。気に入った」
口元を緩ませ、彼女は再び歩き出す。
何処へ行くのか。
何がしたいのか。
彼女の事を僕は知らない。
彼女もまた、僕の事を知らないだろう。
当然だ。それが条件なのだから。
《私の事は聞かないで欲しい》
《私も、そうするから》
《──これで、友達になってくれ》
瞳を潤ませ──
ぽろぽろと雫が頬を伝い──
溢れる。
何が悲しいのか。
何が苦しいのか。
どうして僕なのか。
わからないけれど、僕は泣き続ける彼女の友達となった。
お金で雇われた、ほぼ他人の友達。
「──ぁ。なぁってば!」
彼女の声にハッとする。
僕の腕を掴み、少しムスッとした顔でこちらを見つめている。
「私の話、聞いてるか?」
「ご、ごめんなさい」
素直に謝るが、彼女の表情は変わらない。
いや、少しだけ頬が緩んでいた。
好奇心をかき立てられる何かを、また見つけたようだ。
「あれはなんだと、聞いたんだ」
彼女が指差す方向、そこには大きな木があった。
毎年春の訪れを知らせてくれる、この町のシンボル。
その蕾が花開くのは、まだまだ先だ。
「あぁ。あれは桜の──」
言いかけたところで遮られる。
「それくらい知っている。私が聞きたいのは、もっと上だ」
彼女は天を指す。
白い雲が空をおおい、天からの光を所々遮っている。
「えっと、雲?」
僕の言葉に彼女は「違う」と言わんばかりに頬を膨らませる。
怒っているとわかったが、それが微笑ましくクスッと笑ってしまった。
「な、何故笑う。私は怒って」
言葉を止め、彼女は空を見上げる。
同じように見上げれば、雲の隙間から何かがゆっくり降りてくるのが見えた。
「あれだ! あれはなんだ?」
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