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空から舞い降りてくる白い粒。
ひらひらと花弁のように舞うそれは、触れればすぐに消えてしまう。
「雪、ですね」
「雪か……美しいな」
一瞬寒さを忘れる。
「くしゅっ」
そう、一瞬。
すぐそばから、鼻をすする音も聞こえる。
首にかけていたマフラーを外し、僕はそれを彼女にかけてやった。
「おぉ」
そっと首もとのマフラーに触れる。
かと思うと、彼女はそれに顔を埋め頬擦りをした。
肌ざわりが気に入ったらしい。
「あたたかいな」
ふわり、という言葉がしっくり来た。
彼女の笑みは、彼女が「あたたかい」と語るマフラーと同じくらい──いや、それ以上にあたたかく、僕を優しい気持ちにさせる。
だから決して、ホットドッグがマフラーに──なんて思わない。
思わない。
「君は寒くないのか?」
一応気遣ってくれるが、彼女にマフラーを返す気はないらしい。
もふもふと、その感触を堪能している。
「正直寒いです」
──なので、温かい飲み物でも。
と伝える前に、彼女がにぱーっと明るい表情をしている事に気付き、言葉に詰まる。
「──ホットドッグ(あたたかいもの)だな!」
自信満々、もしくは興奮状態と言うべきか──ご機嫌な彼女が踵を返せば、マフラーと後ろで結われた髪が揺れる。
《私の事は聞かないで欲しい》
あの日以降、彼女の涙は見ていない。
彼女の目的も、彼女の事もわからないままだ。
けれど、わかった事もある。
好奇心旺盛で。
注意力が少し足りなくて。
よく怒り、よく笑う。
ホットドッグを美味いと頬張り。
雪の美しさに魅了され。
マフラーに顔を埋めれば、あたたかいと微笑む。
雇われて五日目。
彼女がいる明日と、彼女のいない明日。
希望と絶望の狭間で、僕は思った。
いつか、彼女が話してくれる時。
僕も彼女に話そうと。
君に出逢ったあの日。
君に心奪われ、救われた──僕の事を。
その「いつか」が訪れるまでは──
例え雇われた身だとしても──
君の、友達で居ようと。
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