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「ようやく、君を捨てる決心がついたよ」
僕は毎日君に触れて、優しく頬をなでる。
だけど、君は日に日に弱っていった。
「新しい子に乗り換えたら?」と、君はシャボン玉を飛ばしながらよく言ったね。
僕は「まだ君と一緒に居たいんだ」と、お決まりの台詞を返す。そうすると君はいつも、クシュクシュと恥ずかしそうに笑うんだ。
君は、肌もボロボロになって、シャボン玉も飛ばせなくなって、お皿も綺麗に洗えなくなった。
「早く、私を捨ててよ」
横たわったまま、君は萎れた笑みを見せた。
僕は初めて君とシャボン玉を飛ばした日を思い出す。クシュクシュと楽しそうに笑う君は、ほんのりオレンジの香りを漂わせていたんだ。
あの頃に比べて、君の体は随分と小さくなっている。
「ようやく、君を捨てる決心がついたよ」
新しく僕の家にやってきた子は、君によく似ていた。
シャボン玉をたくさん飛ばし、オレンジの香りがして、クシュクシュと笑う。
きっと君も、「この子なら、私の後を任せられるね」と言ってくれている。そんな気がするんだ。
「今まで、たくさんの想い出をありがとう」
僕は、君を想いながら、新しいスポンジの泡立ちに感心していた。
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