後編1『ライの譲歩 一歩目』

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後編1『ライの譲歩 一歩目』

 その日、希望は珍しく一人でお留守番をしていた。ユキと希美は飼い主と共に病院に行ってしまったのだ。    二度目のお昼寝から目覚めて、希望は周りを見回した。お気に入りの毛布はいつも通り暖かいしもふもふだった。けれど、誰もいなくて静かな部屋が、今は寂しくて寂しくて仕方がない。  みゃぁ……、と希望は誰かを呼んでみる。いつもならこうやって寂しいと鳴いて訴えれば希美やユキ、あるいは飼い主や飼い主のお母さんが駆け寄ってきてくれるのに、今はシンッと静まり返るのみ。  こんな寂しさは久しぶりだ。  最近は、希望が一人で寂しいと思った時には、ライが現れていたから寂しいことが続くことはなかった。希望がお外でうろうろしている時、窓からお庭を眺めている時、そんな時にライは現れる。  今日も来てくれるかもしれない、と希望は期待を込めて、二階の出窓のところに登った。キョロキョロと庭を見回して、あのエメラルドの輝きがないか探してみる。ライは真っ黒だから、日差しの下に出てきたらわかるはずだ。しばらくそうして庭を見渡し、尻尾をゆらゆら振って待ってみる。  あ! と希望は尻尾をピンッと伸ばした。     
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