くゆる

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 ショコラトリー『白雪』へようこそ。 こんな雪深い森の中まで来るなんてとんだ変わり者がいたもんだ。 失礼、褒めてるの。 だってここまで来るのに一苦労じゃない。 どうして知ってるかって?  いつかのあたしもその一人だったからよ。  さて、まずはその雪まみれのコートを壁にかけて好きな席へどうぞ、帽子も手袋もかけておけばじきに乾くわ。 席はカウンターしかないの。 今なら五つの内どこでも選び放題よ。 だってお客はあなたしかいないもの。 ああ、あたしはここから失礼するわね。 さぁ、レモンの白湯でも飲んで温まりなさいな。  赤いコースターに透明の耐熱グラス、黄色い輪切りのレモンに白い湯気。 ぱちぱちと音を立てる薪ストーブにランプ型の電気はほわんと温く灯らせて、窓の外は冷たいきらきらの雪。 カウンター席の真ん中にはあなた、カウンターの中はあたし。  それとまだ姿を見せないお店の品の匂い。
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