くゆる

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なるほどまだそう老いた年齢には見えない。 三十代前半と言ったところか。 「──いらっしゃいませ。お待たせしたようで……」  自分は、お喋りしていたので気にしないでください、と言った。 しかしコートを脱いでいたマスターの手が止まった。 「……ここは僕ひとりしかいませんが」  いやそんなはずは、と回る椅子を前に戻した時、自分は驚いた。 そこには誰もいなかったからだ。 懸命に、女性が、赤いリボンの、このレモンの白湯だってと説明する。 するとコートを脱ぎ終えたマスターはカウンターの端からカウンター内に入り、手を洗い、黒いエプロンをつけた。 それから、カウンターにある物を置いた。  黒いエプロンと結ばれていない赤いリボン紐──それから、銀色の指輪。 「……どうぞ、あなたの話を聞かせてください」
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