3人が本棚に入れています
本棚に追加
なるほどまだそう老いた年齢には見えない。
三十代前半と言ったところか。
「──いらっしゃいませ。お待たせしたようで……」
自分は、お喋りしていたので気にしないでください、と言った。
しかしコートを脱いでいたマスターの手が止まった。
「……ここは僕ひとりしかいませんが」
いやそんなはずは、と回る椅子を前に戻した時、自分は驚いた。
そこには誰もいなかったからだ。
懸命に、女性が、赤いリボンの、このレモンの白湯だってと説明する。
するとコートを脱ぎ終えたマスターはカウンターの端からカウンター内に入り、手を洗い、黒いエプロンをつけた。
それから、カウンターにある物を置いた。
黒いエプロンと結ばれていない赤いリボン紐──それから、銀色の指輪。
「……どうぞ、あなたの話を聞かせてください」
最初のコメントを投稿しよう!