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セーフワード
ふらり、と一瞬身体が揺らいで、でも脚のチカラでなんとか踏みとどまった。
「痛ッ……」
軽いけれど、弾かれた痛みはヒリヒリと頬を赤く腫れさせた。
それから、もう一度菜摘の手が或斗の顔へ伸びてきて……叩かれると思ってぎゅっと目を閉じるが、衝撃は与えられなかった。
菜摘の腕は首にぐるりと巻きついて、体温が或斗をふわりと包みこむ。
驚いてそのまま静止していると、菜摘がぎゅうっとその身体を抱きしめた。
「な、つみ……」
「ごめんね、或斗。僕は君の心配ばかりをして……君の気持ちを何も考えていなかった。パートナーを決めるのはSubだから、僕にこんなこと言う権限はないんだ……」
菜摘が、そう弱弱しく落ち込んだ声を発したので、或斗も慌てて菜摘を抱きしめ返した。
突発的に叩いたこと、或斗を束縛しようとしたこと、両方に謝罪をしているようだ。
パートナーを決めるのはSub。
これはダイナミクスを持つ人たちの間ではわりと常識で、被害者になりやすいSubが、信用できるDomを選びパートナーになる。
今回、或斗が朝比を選んだのなら、菜摘にはそれ以上、どうしようもできないのが現状だった。
「こちらこそ心配かけてごめん。安心して菜摘。朝比さん、本当はイイ人だから」
「本当に?」
「うん。今日もすっごく優しくしてくれた。コマンドのこと、色々教えてくれたんだ」
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